【取材ライター:池田愛】真面目にコツコツが1番の近道

インタビュー

「ライターを目指したきっかけは、本当に些細なことでした」
 取材ライター・池田愛(めぐみ)さんはそう振り返りながら話してくれた。取材ライターになるまでに辿った道は、決して平坦ではなかったという。
 ライターとしての過去と今、そして、これからについて語ってもらった。

プロフィール

この記事を書いた人

すべては”気まぐれの投書”から始まった

 大学では法学部に所属していた。裁判を傍聴してレポートを書く課題などに取り組むうちに、裁判所の書記官に憧れたという。
「まさに『虎に翼』の世界ですよね。新卒時点の就職活動では裁判所書記官を目指して、併願で他の公務員も受けていました」
 池田さんが就活をしていた当時、民主党政権の旗振りのもと、公務員の採用枠は大幅に減らされた。そのことも影響してか、結果は芳しくなく、最終的には民間企業の事務職に就くことになる。
「何回か転職していて、最後は法律事務所の事務職をしていました。法律事務所に勤める以上は多少の専門知識が求められるため、普通の事務職員でも司法書士などの資格を持っていた方がいいんですよね。私は法律関連の資格を持っていないので、このまま続けるのは厳しいだろうな、と考えていました。
 それと同時に、書く仕事がしたいなと、うっすら思っていて。でも、書く仕事って何から始めていいかわからないな、とぼんやりしているうちに、気がついたら30代になっていましたね」
 そんな池田さんに訪れた転機は新型コロナウイルスの流行だった。コロナ禍のあの異様な空気の中、誰もが迷い、戸惑った。人生における何かしらの決断を下した人も多かっただろう。池田さんもその1人だ。
 密状態での電車通勤に嫌気が差したこともあり、在宅勤務ができる職種を探した。ライターという仕事を本格的に視野にいれたのは、その時だという。
「法律事務所に勤めているときに、日々の鬱憤を文章にしてみたんです。しかし、当時私はSNSをやっていなくて、その文章をぶつける先がありませんでした。そこで、気まぐれですが新聞に投書してみたんです。それが採用されました。それも2回も。
 新聞に刷られて活字になったことで、自分の文章が目に見える形になったのです。そのときはなんとも言えない感動がありましたね。しかも謝礼にクオカードを頂いて。確か1,000円分ほどだったと思うのですが(笑)。少額でも”文章で稼ぐ”という経験をしました。それで『あれ?私、文章を仕事にできるんじゃない?』と思ったのです」

独学からSEOライター、そして取材ライターへ

 ライターになると決めてから池田さんの行動は、早かった。
 ネットで検索したり、YouTubeの動画を調べたりした結果、最初にたどり着いたのはクラウドソーシングだ。早速サイトに登録して仕事を受け始めた。まず始めたのは300文字ほどの小規模案件。そのタイミングで事務職は契約満了を迎えた。池田さんは継続を希望せず、辞めることを決断する。
「ちょうど良かったので。おかげでもう後には引けないという覚悟ができました。本気でやるしかないって。だから事前に勉強する時間はとれませんでしたね。実践的にコツコツ案件を受けながら、独学でYouTubeを見たり本を読んだり。そこから徐々に1,000、2,000、3,000文字と案件の文字数を増やし、SEO記事を書くようになりました」
 SEO(Search Engine Optimization)とは、ネットの検索エンジンで対象のサイトを上位表示をさせるための対策のことだ。Webライターは、このSEO記事の作成を生業としている人が多い。
 池田さんも地道な努力を続け、SEOライターとして軌道に乗り始めていた。しかし、そこでふと立ち止まる。SEOライターとして活躍するには、得意分野を持っている方が良い、と一般的には言われている。実際、第一線で活躍しているSEOライターは、金融特化、不動産特化という肩書きを持っている人がほとんどだ。
「私には、自信を持って得意だといえる分野がなかったし、今もないですね。だから、このままSEOライターを続けて良いのか、と危機感を持っていました。ライターを続けるためには、”私だけの武器”を用意する必要がある、そう考えたのです」
 既存のウェブサイトやSNSなどの情報を元に記事を書くことは、「何かが違う」と感じていた。さらに、リサーチした結果の裏取りに時間がとられることにも疑問を抱く。
 ネットにない情報で記事が書きたい。自分だけの武器も持ちたい。―考え抜いた池田さんが出した結論は”取材ライター”という道だった。取材であれば生の情報が手に入る。多少の言い間違いや記憶違いはあれど、情報は概ね正確だ。何より自分にしか書けない記事が書ける。そう考えた。

 取材についても独学で勉強し始めたが、クラウドソーシングで見つけられる案件は経験者限定のものや低単価のもののみ。このままではいけないと、取材に特化した講座を受けることにした。取材ライターの渡辺まりこ氏が主宰する『ZeroFlag(ゼロフラ)』だ。
「ゼロフラでは企画からアポ取り、取材、執筆、撮影までの流れをすべて教わりました。そうやって取材のサンプル記事を作り、それを元に営業活動を始めて、音源の文字起こしから徐々に案件が取れるようになっていきました」
 独学の頃から「まずやってみる」という方針で自分を鍛え抜いてきた。コツコツやれば結果がついてくることも知っている。独学に加えてゼロフラという学びの場を得たことは、彼女にとって大きな力となった。
「独学のみのときは本当に孤独でした。まず、ライター関連の情報が入ってこない。講座の内容ももちろんですけど、コミュニティに身をおくこと自体、とてもプラスに働きましたね。
 ゼロフラを卒業してからすぐに取材一本でやっていけるほどではありませんでしたが、取材とSEO、5:5ぐらいの割合から、徐々に取材が増えてきて、今では8:2ぐらいで取材の方が多くなってきています」

肌で感じて、手で書いて、足も動かす

 ライターと聞くとパソコン仕事がメインだと思われるかもしれないが、そうもいかないのが取材ライターだ。
「現地取材がある日は、場合によっては半日とか、1日はかからなくとも朝から夕方まで時間がかかるときもありますね。移動がありますから。それでも、オンライン取材より現地取材の方が私は好きです。
 現地取材の場合、得られる情報が本当に多くて。例えば企業様へインタビューに行くとき。最寄りの駅からの道中で見かけたものとか、会社の建物の外観、会社の雰囲気まで、すべてが一次情報なんですよね。あまり重要に思えないものが、原稿作成時のヒントになる場合もあります」
 取材において、最も重要なのは相手との心理的な距離感だと池田さんはいう。
「現地取材だと、いろんなフックがあるんです。取材相手に近づくためのフックが。細かい所でいけば、お話しされるときの視線だとか、身振り手振りの癖だとか。女性だったらネイルをしているからオシャレ好きなのかな、とか。そういった情報が相手と距離を縮めるチャンスなんです。距離さえ縮まってしまえば、取材は概ねうまくいきます。
 でも、オンラインだと背景画像くらいしかフックになる要素がない。だから、オンラインの方がより下準備をしっかりしておく必要があります。現地取材のときも当然準備はしていきますが、オンラインの方が得られる情報が少ない分、本当に徹底的にリサーチしますね」

 SEOライターと取材ライター。ライターという職業に違いはないが、決定的に違うことの一つは営業方法だろう。SEOライターは、基本的にネットだけのやり取りで受注から納品までの仕事を進めることができる。それに対し、取材ライターは当然だが、企業や人物への取材が肝だ。だからこそ、足を使うことが大事だと池田さんはいう。
「異業種交流会には、積極的に参加しています。そこで直接営業をするというわけではなく、顔を売るといいますか。まず、『ここにライターがいるよ!』ということを知ってもらうことを大事にしています。
 異業種交流会に行くと、結構食いついてもらえます。『ライターさんって本当にいるんだ!』って、まるで絶滅危惧種でも見たかのようなリアクションがもらえますよ(笑)」
 このようなライターのいない環境を、池田さんは”ライター砂漠”と呼ぶ。
「砂漠に行くと、ただの500mlのペットボトルの水だって500円でも1,000円でも売れますよね。それと同じ発想で、ライターが全然いないところに行って『取材できます!こういう記事書けます!』とアピールするんです。すると、会社のHPに取材記事を載せたいとか、自分で文章は書けないから誰かにお願いしたい、というニーズがあることがわかります」
 実際に交流会がきっかけで仕事につながったことも少なくない。他にもSEOライター時代に付き合っていたクライアントに取材ができるとアピールしたこともあるという。そうやって地道に案件を獲得してきた。
「店舗さんや人物に取材をしたくて直営業をするときは、企画書をメールします。
 あなたのこういったところに興味があって、こういうお話を聞きたい。書いた記事でこんなことやあんなことができます、だから私と会ってください、って。熱意をできるだけ伝えるんです。だから、企画書は”ラブレター”ですね」
 熱意を伝えるためにラブレターを書き、肌で情報を感じとり、足を使って営業をする。できることはなんでもやる。そういった姿勢が、池田さんの取材ライターとしての活躍を支えているのだ。

真面目にコツコツが最強

 どんな仕事でも結局は相手に信頼してもらうことが重要だと、池田さんは語る。
「SNS上でも、リアル対面でも、企画書でもそうなんですけど、相手に信頼してもらうことを何よりも大切にしています。自分本位の方法でアピールしてしまうと、相手は心を開いてくれませんから。取材だライターだという前に、まずは人として、そういう距離感の取り方は大事にしなくてはいけないところだと思います」
 SNS上では、ダイレクトメールで急接近をはかるアカウントも少なくはない。フォローして間もないアカウントから「成功するフリーランスのなり方教えますよ!」などというメッセージが届いた経験も、記者には何度もある。そういうアカウントに限って、一度断りをいれると”いいね”をまったくしてこなくなったり、急にフォローを外したりしてくるものだ。
「仕事のやり方は人それぞれですから、好きなようにやればいいんですけど。それでも私はやっぱり”真面目にコツコツ”が最強だと思っています。執筆も、営業活動もコツコツ続ければ何かしらの成果は出ますから。
 それから、”何のためにライターになったか”ですよね。楽してお金儲けをしたい、という理由でライターを選ぶのは、私はちょっと違うかなと思います。初期投資が少なくて始めやすいというところは間違っていませんが、決して楽な仕事ではない。それでも楽しいから、やりたいから私はライターをやっている。この初心を忘れないことが、ライターを続ける上で大切なことだと思います。
 そういう意味でも、まずは副業でライターを始めた方がいいでしょうね。ライターとは別に収入の柱がある状態であれば、やってみてから続けるかどうかの判断ができます。何も試さず楽そうだからという理由で、ライター業に全力投球するのは危険かな、と。私は結果的に専業でスタートしてしまいましたが、副業の方が断然おすすめですよ」
 そう苦笑いする池田さん。しかし、覚悟を決めたことで開けた道もあったのだろう。きっかけこそ新聞の投書という些細なものだった。しかし、今の彼女は間違いなくプロのライターである。その誇りと覚悟が言葉の端々から感じ取れた。

自分だけの武器を磨き続ける

 これからの活動について尋ねると、町工場などのモノづくりの現場やアーティストなどへの取材にもチャレンジしたいという。
「人の話を聞くのがやっぱり好きなんです。日常生活では接点のない人たちの話を聞いて、文章にしたい。仕事として、自分が興味のある人物や企業の話を聞きにいけるのは、取材ライターならではの特権ですね」
 さらに、独自のサービスも始めた。「”言葉の名刺”を制作します」というものだ。このサービスが生まれたきっかけも足を動かした結果だという。
「あるとき記事を書かせて頂いた取材相手の方にこう言われたんです。『自分のことを客観的に見られた気がする、ありがとう』って。私もゼロフラのカリキュラムの一環でインタビューを受ける側の立場を経験したのですが、『確かにそうだな』と実感しました。”岡目八目”とはよく言ったもので、自分で自分のことって、案外わからないんですよね。そういう切り口からサービスを展開すれば、ニーズがあるんじゃないかと考えました。
 これもゼロフラがきっかけで気付いたんですが、私は企画が好きなんです。自分の強みをどうやってブランディングするか、どういうサービスを展開すれば仕事につながるか。手を動かして、足も動かして、いろんなこと考えて、試してみて。まずは動くことが大事です。失敗しても何かの肥やしになりますから」

 ライターになるまで、ずいぶん遠回りをした、と語った池田さん。
 しかし、”真面目にコツコツ”続けた結果、”取材”という自分だけの武器を手に入れることになった。それは遠回りなどではなく、むしろ近道だったのではないだろうか。
 どんなチャレンジをしても、きっと彼女はうまくいく。そう人に思わせる力が、池田さんにはある。これからも”真面目にコツコツ”、挑戦を続けていくだろう。

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